STORY

お客様の声から生まれた「もう少し優しい選択肢」

通ってくださっている方から伺うかゆみやピリつき、香りの好みといった小さな声が、香草カラーやヘナといった選択肢を店に置くきっかけになりました。

店主 小野澤 祥子

通ってくださっている方から伺うこと

椅子に座ってケープをかけた瞬間に、ふっと話しはじめてくださる方がいます。

「実はね、前に染めたときから、耳のうしろがずっとかゆくて」「二週間くらいピリピリしていて、これって年齢のせいなのかしら」。そんなふうに、鏡越しに小さな声で打ち明けてくださることがあります。深刻な相談というより、雨の予報を伝えるくらいの、けれど本人にとってはずっと気にかかっている出来事です。

40 代を過ぎたころから、白髪の量そのものよりも「地肌の感じ方が変わってきた」というお声が増えてきました。以前と同じカラー剤で、同じ美容室で、同じ手順で染めているのに、しみるようになりました。染めたあと、髪が細く見える気がする。分け目のところの頭皮が赤くなっていて、家族に指摘された。そういうお話です。

わたしはそのたびに、こう思います。カラーを続けたい気持ちと、頭皮を守りたい気持ちは、本来どちらも当たり前のものなのに、両方を叶える方法があまり知られていないのではないか、と。染めるのをやめてグレイヘアに移行するのか、我慢して同じ薬剤を使い続けるのか。その二択のはざまで、何年も悩んでこられた方に、これまで何度もお会いしてきました。

そこから見えてきた選択肢の重要性

もう1つ、繰り返し伺うのが「香り」のお話です。

美容室に入った瞬間の、あの独特のにおいが苦手で、通うのが少しつらくなってきた。予約の日が近づくと気が重い。染めたあと、枕についたにおいがなかなか抜けない。そんな声を聞くたびに、髪だけでなく、時間そのものが苦しくなっていることに気づかされます。せっかく美容室に来てくださっているのに、リラックスして帰っていただけないのは、わたしにとってもさびしいことです。

こうしたお声を、1つ、また1つと積み重ねていくうちに、うちの店に置いておきたいものがはっきりしてきました。ジアミンを含まない香草カラーや、インドから届くヘナ、藍染といった植物由来の選択肢です。もちろん、これらが誰にとってもちょうどいい答えというわけではありません。染まり方に時間がかかることもありますし、色味の幅は化学染料に比べると穏やかです。それでも「今日はしみなかった」「においが草っぽくて落ち着く」と言っていただけると、置いておいてよかったと感じます。

大切にしているのは、選択肢を一方的に勧めないことです。頭皮の状態や生活のリズム、次に染める予定はいつごろかといったお話を伺いながら、化学染料のほうが向いているときは、無理に自然派を勧めることはしません。もし赤みやかゆみが続いているようなら、皮膚科でのご相談も一度はさんでいただくよう、お伝えすることもあります。美容室で判断しきれない範囲は、正直にそう申し上げるのがわたしの役目だと思っています。

続けて考えていること

お客様の声が、うちの店のメニューを少しずつ形づくってくれました。この順番は今も変わりません。わたしが最初に「こういうサロンにしよう」と決めたのではなく、通ってくださっている方の言葉が、次に何を学べばいいか、何を仕入れればいいかを教えてくれています。

だから今日も、鏡の前で交わす短い会話をいちばん大切にしたいと思っています。「最近こんなことが気になって」と言っていただけたら、そこには次の選択肢のヒントがあります。すぐに答えが出せないこともありますが、持ち帰って、勉強会で聞いてみたり、本を読み直したり、他の店主さんに相談してみたりします。そうやって少しずつ引き出しを増やしていくのが、小さな店の面白いところだと感じています。

もし今、髪や頭皮のことで小さな引っかかりを抱えていらっしゃるなら、遠慮なく話しかけてください。うまく言葉にならなくても大丈夫です。「なんとなく、前と違う気がする」その一言から、一緒に考えられることがきっとあります。