STORY

完全予約制、マンツーマン施術を続けているのは

完全予約制とマンツーマン施術を続けている理由を、白髪染めや頭皮の悩みに向き合う日々の会話を交えて綴ります。ゆったりした時間の中で、髪と気持ちの両方を整えたい方に読んでほしい話です。

店主 小野澤 祥子

完全予約制の意味

「予約が取りにくいって聞いたんですけれど」と、電話口で少し遠慮がちに話されるお客様がいます。うちの店は完全予約制で、1 日にお迎えできる人数を絞っています。数を追わない分だけ、来てくださった方の髪と頭皮に時間を使いたいのです。

完全予約制と聞くと、何だか敷居が高いように感じるかもしれません。わたしとしては、そういうつもりで続けているわけではないのです。むしろ逆で、初めての方でも落ち着いて座っていただけるように、他のお客様と時間が重ならない形にしています。

順番待ちで気を遣ったり、話しかけようか迷ったまま鏡の前に座っていたり。そんな経験を、うちに来られる前にしてきたお客様が少なくありません。「今日は何を伝えたらいいかしら」と考えながら来店される方に、まずゆっくり息をついていただく時間を作りたいのです。

マンツーマンで受ける理由

香草カラーや藍染は、途中で温度や様子が変わっていく染め方です。頭皮に置いている間の色の入り具合、髪の水分を含んだ手触り、その日の体調による赤みの出方。目を離してしまうと、仕上がりが少しずつずれていきます。

だからマンツーマンで、最初から最後までわたしが担当しています。シャンプー台に移るときも、次のお客様のことを気にせずに、髪の様子だけを見ていられます。「あら、今日はいつもより赤みが出ましたね」と気づける距離にいたいのです。

40 代から白髪染めを始められた方が、50 代に入り、60 代になっていく。その途中で、髪の細さや頭皮の状態は少しずつ変わっていきます。同じ人がずっと隣にいると、そういう変化に早く気づけます。「前より地肌がしみやすくなってきましたね、薬剤を変えてみましょうか」と、その場でお話しできるのです。

ノンジアミンやヘナを選ばれる方は、ジアミンでかぶれた経験を抱えていることが多いです。皮膚が薄くなる感じ、耳の後ろのかゆみ、染めた翌朝のむくみ。そういう繊細な話は、周りに他のお客様がいる場所ではしにくいものです。マンツーマンで座っていると、「そういえば」と思い出したことをぽろっと話してくださいます。

お客様との距離の作り方

「近すぎず、遠すぎず」というのが、わたしが心がけている距離です。話したい日はゆっくり話を聞いて、静かに過ごしたい日は無理にお声がけしない。その日の空気は、椅子に座られた瞬間の表情でだいたい伝わってきます。

先日、遠方から通ってくださっている 60 代のお客様が「ここに座ると、ようやく肩の力が抜けるの」と話してくれました。ご家族のことや体調のこと、髪の話から少しずつ離れていく会話もあります。無理に話題を髪に戻すことはしません。頭皮を触っている間の沈黙も、悪くない時間だと思っています。

わたしから根掘り葉掘り伺うことはしませんが、髪や頭皮の状態については、その日感じたことを正直にお話しします。「今日は少し乾いていますね」「頭頂部の分け目が広がってきたかもしれません」。気になったことを、店を出るまでにお伝えしておきたいのです。家に帰ってから「そういえば聞きそびれた」となるのは、お互いに気持ちがすっきりしません。

急かされない時間、話を遮られない時間、髪だけを見てもらえる時間。そういう時間を過ごせる場所が、街の中に1つくらいあってもいいと感じています。うちの店ができることは限られていますが、その限られた時間を大切に使いたいという気持ちで、今日も青いドアを開けてお客様をお待ちしています。