STORY
フットバスとカウンセリング、施術前の 30 分の意味
香草カラーの前に置いている、フットバスとカウンセリングの 30 分について。身体がゆるむ時間の意味と、鏡越しではなく向かい合って伺うようにしている理由を、店主の言葉で綴った一篇です。
お店に着いてすぐは、染めはじめません
うちの店では、お客様が来られてすぐに染めの席へお通しすることはありません。まず、コートを預かって、奥のソファに腰かけていただきます。香草カラーの前に、フットバスとカウンセリングで、およそ 30 分の時間を置いています。
はじめて来られる方の中には、「え、そんなにゆっくりしていていいんですか」と少し戸惑われる方もいらっしゃいます。以前勤めていたサロンでの経験から、来た瞬間から髪をいじられる感覚に慣れておられるのだと思います。それでも、10 分ほど足元があたたまってくる頃には、みなさん自然に肩の力が抜けていかれるのを感じます。
わたしはこの 30 分を、染めの一部だと考えています。頭皮に薬剤を触れさせる前に、身体のほうから整えていただく時間、と言ったほうが近いかもしれません。
足からあたためると、頭皮もゆるんできます
フットバスは、桶にお湯を張って、香草のブレンドをひとつまみ落としたものです。特別に高価な設備ではなく、木の桶とタオル、それだけの用意です。ただ、湯の温度と、足首まで浸かる深さには気をつけています。
膝から下があたたまってくると、少し経ってから、こめかみや後頭部の血の巡りが変わってくるように感じます。とくに冷えを抱えておられる方は、頭皮も硬くなっていることが多くて、そのまま染めに入るよりも、足からじんわりほどいてもらったほうが、あとの薬剤ののりも違うように思うのです。
医学的にどう説明すればよいかは、わたしにはうまく言えません。ただ、経験の中で、あたたまった状態で染めた日と、そうでない日とでは、頭皮のつっぱり具合や、翌週のかゆみのご報告が違うと感じてきました。気になる方は皮膚科でのご相談も合わせていただければと思います。
「家に帰ってからも足があたたかいままだった」と、後日おっしゃってくださった方がありました。染めのあとに、そう感じていただけるのは、うちの店にとってひとつのしるしのように受け取っています。
鏡の前ではなく、向かい合って伺います
フットバスにつかっていただいている間、わたしはお客様の正面に椅子を寄せて、カウンセリングをします。あえて、鏡越しではありません。目線を合わせて、膝を近くにして、話を伺うようにしています。
伺うのは、大きく3つのことです。
- 今日の頭皮と髪の調子。かゆみ、乾き、抜け毛の増減
- 前回染めてから今日までの、体調やお薬の変化
- 今日どのくらいの明るさ、染まり方にしたいか
こう並べると事務的に見えるかもしれませんが、実際にはもっと雑談に近い時間です。「お孫さんの運動会はどうでした」「梅雨のあいだ、ひざは大丈夫でしたか」といった話の合間に、髪と身体の様子が自然と混ざってきます。
とくに 40 代の後半から 60 代にかけては、ホルモンのゆらぎやお薬の切り替えで、頭皮の状態がひと月ごとに変わっていかれることがあります。前回と同じ処方をそのまま繰り返すのではなく、今日の頭皮に合わせて、ハーブの配合や染める順番を少し変えることもあります。
30 分を惜しく感じないでほしいのです
「時間がもったいないから、すぐ染めてくれていいですよ」と言ってくださる方も、ときどきいらっしゃいます。お仕事のあいまに来てくださる方や、ご家族の予定にはさまれて来てくださる方は、とくにそう感じられるのだと思います。
それでも、わたしはこの 30 分をなるべく残したいと思っています。染めの薬剤に頭皮を触れさせるということは、身体に何かを預けていただくということです。そのまえに、こちらがお客様の今日を知り、お客様のほうも一度呼吸を落ち着けてくださる時間があると、そのあとの染めの意味が変わってくるように感じます。
うちの店は、白髪染めだけをしに来ていただく場所というよりは、ひと月ぶんの緊張を、いったんおろしに来ていただく場所でありたいと思っています。フットバスとカウンセリングの 30 分は、そのための入り口のようなものです。
次に予約を取っていただくときは、施術時間のあとに、この 30 分がそっと足されているのだと思ってお越しください。急がなくてよい時間として、お渡ししたいと思っています。