STORY

アーユルヴェーダのハーブと出会って、染めかたが変わった話

白髪染めで頭皮を傷めるお客様のあとで、ハーブの染めを探し始めた店主が、インドのアーユルヴェーダに触れ、香草カラーへと歩みを変えていった、個人的な記憶をたどる文章です。

店主 小野澤 祥子

うちの店で染めのご案内をしていると、「香草カラーって、どうやって知ったんですか」と伺うことがあります。いま思えば、名前を最初に耳にした日から、実際に自分の指で粉を溶く日までは、けっこう長い距離がありました。今日は、その道のりを少し書いてみます。

アーユルヴェーダを知ったきっかけ

きっかけは、ある一冊の本でした。ちょうど、白髪染めのたびに頭皮を赤くしてしまうお客様と、うまく寄り添えなかった時期です。夜、家に戻ってからも、何か違う染めかたはないのかと、頭のどこかがずっとざわついていました。

書店の隅で、ハーブの本の中に「アーユルヴェーダ」という言葉を見つけました。インドで五千年ほど続いてきたという、暮らしと体の考えかただそうです。髪や頭皮も、体の一部としてゆっくり整えていくもの。読みながら、わたしは美容室の椅子の景色を思い出していました。

染料の話というより、暮らしの話として書かれているところが、なぜか胸に落ちました。そのころのわたしは、染めを「短時間で仕上げる作業」としか捉えていなかったのだと思います。髪の色が、その方の毎日のどこにつながっているのか、あまり深く考えられていませんでした。

ハーブ染料を試したときの感触

しばらくして、インドから届いた粉のヘナと、藍のハーブを取り寄せる機会がありました。段ボールを開けた瞬間の、乾いた葉と土がまじったようなにおいは、今も忘れられません。

自分の指でお湯を注いで練ってみると、思ったよりずっと柔らかいペーストになりました。市販の薬剤のようなつんとした刺激はなくて、青草の遠くにかすかな香ばしさが混ざっているような、不思議な香りです。まず自分の毛束で試して、次に自分の白髪で試しました。

最初に染まったのは、オレンジ寄りの明るい色でした。「あれ、これで大丈夫だろうか」と一瞬うろたえたのを覚えています。そのあとに藍のハーブを重ねると、時間をかけて、少しずつ落ち着いた色に変わっていきました。ドライヤーで乾かしたあと、光にかざしたときの深みは、それまで扱っていた薬剤とは違う質感でした。

同時に、染めているあいだの時間の流れも、まったく違いました。ハーブは、髪と頭皮に置いてから、しばらく待つ時間が必要です。その待ち時間を「無駄」と感じるか「余白」と感じるかで、この染めとの相性が決まるように思います。わたしは、後者のように感じました。

続けて選ぶようになった理由

ハーブの染めを続けて選ぶようになった理由は、大きく2つあります。ひとつは、頭皮のことで悩んでこられた方に、無理をさせずにお出しできる場面がぐんと増えたこと。もうひとつは、染めが終わったあとに「なんだか肩の力が抜けました」と話してくださる方が、少しずつ増えてきたことです。

もちろん、ハーブがすべての方に合うわけではありません。仕上がりの明るさや、施術にかかる時間、通う頻度など、これまでの白髪染めとは前提が違います。合わないと感じられて、途中でやめられる方もおられます。それでも、選択肢のひとつとしてここにあるだけで、救われる方がいる。そう感じるようになりました。

アーユルヴェーダの本の中に、「植物は待つ時間を持っている」と書かれていた一節があります。染料としてだけでなく、暮らしのリズムそのものを、少しゆっくりに戻してくれる。あの日の本を閉じたときには想像もしていませんでしたが、いまのわたしの仕事の芯には、その一節がずっと残っています。

もし白髪染めのことで、なんとなく気持ちが疲れている方がいらっしゃったら、こういう染めかたもあるのだと、頭の片隅に置いておいていただけたらうれしいです。合う合わないは、実際に触れてみないとわからないところもあります。気になる方は、いつかカウンセリングのときに、ゆっくり伺わせてください。