TECHNIQUE

ヘナ(ヘンナ)とは、インド伝統のハーブ染料

ヘナはインドや中東で古くから使われてきたミソハギ科の植物です。歴史的な用途、ローソン色素が髪と結びついて染まる仕組み、続けるうちに髪にツヤとコシが出てくる理由を、店主の経験から順に書きます。

店主 小野澤 祥子

「ヘナって、そもそも何なんですか」。うちの店で香草カラーと並べて説明していると、こう伺うことがよくあります。名前は聞いたことがあるけれど、正体はよくわからない。植物由来らしいけれど、どうやって色が付くのかは想像しづらい。当然のことだと思います。

わたしも最初にヘナを触った日のことは、今でもよく覚えています。粉をお湯で溶いた瞬間の、干し草のような、少し湿った土のような香り。あの香りを含めてヘナだと、今は感じています。今日はその輪郭を、なるべくやさしい言葉で並べてみます。

ヘナの歴史と使われかた

ヘナは、インドや中東、北アフリカの乾いた土地で育つ、ミソハギ科の低木です。日本語では「指甲花」と書かれることもあります。花や実ではなく、葉っぱの部分を乾燥させ、粉に挽いたものが、いわゆる染料としてのヘナです。

使われてきた歴史はとても古くて、古代エジプトのミイラの爪や髪にヘナで染めた跡が残っているとも言われています。インドでは結婚式の前夜に、花嫁の手のひらに細やかな模様を描く「メヘンディ」という風習が今も続いていて、あの茶色い模様がまさにヘナの染まりかたです。

アーユルヴェーダの世界では、ヘナは体の熱を鎮めるハーブとして扱われてきました。頭皮を落ち着けたり、爪や髪を強くしたりと、単に色を付ける染料というより、日々の手入れの一部として暮らしに溶けていた植物です。日本にヘナが本格的に紹介されたのはそれほど昔ではないのですが、背景にはこうした長い時間の積み重ねがあります。

染まる仕組み

ヘナの葉には、ローソンと呼ばれる色素成分が含まれています。この色素が、髪の主成分であるケラチン(たんぱく質)と結びつくことで、髪はオレンジから赤茶の色に染まっていきます。

一般的なカラー剤は、アルカリでキューティクルをゆるめて、内側で酸化させて発色させるという仕組みです。ヘナはこの手順を踏みません。キューティクルをこじ開けなくても、ローソンが自分から髪のたんぱく質に吸い付いていくので、外側から色素をまとわせるようなイメージに近いです。

だから、染めるときはお湯で溶いた温かいペーストを髪にたっぷり乗せて、しばらく時間を置きます。この放置時間のあいだに、ローソンがゆっくり髪となじんでいくのです。焦って洗い流してしまうと、色が浅くなりやすい。時間を味方につける染料だと感じます。

単体で染めたときの色は、オレンジ〜赤茶に落ち着きます。「もっと暗くしたい」という方には、藍染(インディゴ)を続けて重ねる方法をご案内することもあります。ヘナはあくまで、その方の髪色と混ざり合って表情を作る染料なので、同じレシピでも仕上がりが微妙に違ってくるところがおもしろいです。

ツヤが出る理由

ヘナで染めた方から、「なんだか髪にコシが出た気がします」と伺うことがよくあります。染料なのにケアのような働きがあるのは、染まる仕組みそのものと関係しています。

ローソンが髪のたんぱく質に結びつくとき、一本一本の表面に、ごく薄い皮膜のような層ができていきます。この層が光をきれいに返してくれるので、乾かしたあとに指通りの重さと一緒に、しっとりとした艶が出てきます。キューティクルを荒らさないぶん、光の反射がまっすぐなのだと感じます。

もうひとつ、続けて染めているうちに、髪そのものの手触りが変わってくる方が多いです。細くてぺたんとしていた髪に、少しずつハリが戻ってくる。根元がふわっと立ち上がるようになった、というお声も伺います。ローソンが繰り返し内部に入り込むことで、髪の芯にコシが育っていくような感覚です。

ただ、最初の1回で劇的にツヤが出るというより、2回、3回と重ねるあいだにゆっくり変わっていくのが、ヘナの正直なところです。初回だけを試して「思っていたのと違った」と感じる方もいらっしゃるので、続けてみる前提でご案内するようにしています。

歴史のある植物なので、目新しい流行の染料ではありません。それでもインドや中東の暮らしの中で長く残ってきた理由は、髪と頭皮に無理をさせない、というシンプルな性質にあるのだと思います。気になる方は、香草カラーとの違いも含めて、カウンセリングのときにゆっくり伺わせてください。